【GHIコラム 第2回】:GHI実装の7ステップ ― 測定から理事会報告まで
- Afya Management and Innovation

- 2月17日
- 読了時間: 6分

前回の第1回では、JCI第8版で新設されたGHI(Global Health Impact)の全体像と、その思想的背景について解説しました。
GHIは、「環境に配慮しているか」ではなく、
「環境負荷を管理する仕組みが構築され、運営されているか」を問う章です。
では、実際に自院で何から始めればよいのでしょうか。
「GHI対応」と聞くと、
膨大なデータ収集が必要なのではないか
大規模な設備投資が必要なのではないか
と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、GHI実装の本質は、
ゼロから何かを作ることではなく、既存の経営・品質・リスク管理の枠組みに「環境に関する管理」の視点を統合することにあります。
本稿では、GHI.01(ガバナンス)およびGHI.03(測定と削減)を中心に、実装のための7つのステップを整理します。
GHI01, 03実装の全体像:まずは構造を理解する
GHI実装は、次のような流れで進みます。
ベースライン算定
ホットスポット特定
戦略策定
KPI設計
モニタリング
理事会監督
年次報告
この7つは、単なるチェックリストではなく、
「測る → 分析する → 計画する → 実行する → 報告する」という、管理の循環そのものです。
つまり、GHI対応とは、
環境版のQPS(Quality Improvement and Patient Safety)を構築することと言ってもよいかもしれません。
Step 1:ベースライン算定(現状把握)
まずやるべきは、完璧な戦略をすぐに打ち立てるのではなく、「現状把握」です。
決めること
基準年(直近12か月)
組織境界(どこまで含めるか)
Scope1/2/3の対象範囲*
(*Scopeは、近日中に別コラムで紹介する予定です。)
集める最低限のデータ
電力使用量(単位:kWh)
燃料(都市ガス m³・軽油等 L)
水使用量(m³)
廃棄物量(kg)
再エネ電力量(再生可能エネルギーの契約がある場合)
麻酔ガス等の臨床項目(kgまたはボトル数)
二酸化炭素換算量を求めるための基本式
CO₂e(二酸化炭素換算量)= 活動量 × 排出係数
活動量とは「病院が実際に使用・消費・排出した量」を指します。上記「集める最低限のデータ」そのものです。各施設でどれくらい温室効果ガスにつながる活動があるのかを量的に示したものです。
排出係数とは「活動量1単位あたり、どれだけCO₂eが出るか」を示す数字です。
例:
電力の排出係数が0.45 kgCO₂e / kWhで、100,000kWhの電力消費がある場合の二酸化炭素換算量は、
100,000 kWh × 0.45 = 45,000 kgCO₂e
という計算で求められます。
排出係数は医療施設が各自で定義するものではなく、公的または国際的に認められた数字を使用します。この排出係数は、地域や年によって変動する数字であるため、該当する国や地域の最新の定義を使用するようにしましょう。「なぜその定義を使ったのか」を説明できるようにしておくこと、また、一貫してその定義を使用すること、が大切です。
また、この係数はlocation-basedかmarket-basedかによっても変わります。基本的にはlocation-basedを用いて算出しますが、今後、削減施策の一つとして「再生可能エネルギー比率増加」を盛り込む場合は、両方の計算方法で算出した二酸化炭素排出量を用意した方が良いでしょう。
(*location-based、market-basedは、近日中に別コラムで紹介する予定です。)
算定には、AKDN(無料ツール)やSAT(有料統合ツール)を活用できます。
ただし、係数選択の論理、計算方法の把握、係数の出典について正しく理解した上での使用をお勧めします。審査の際に説明を求められても、正しく説明できる(=理解していることを示す)ことが大切だからです。
Step 2:ホットスポット特定
排出の大きい上位3〜5項目を特定します。
電力が最大か?
調達(Scope3)が最大か?
麻酔ガスか?
廃棄物か?
この「フォーカスポイント」を特定することが、戦略策定の出発点となります。
Scope1/2/3を全て網羅した上で、フォーカスポイントを決定することが重要です。通常、多くの産業ではScope3が最大となりがちですが、医療機関は電力依存度が高く(空調負荷が大きく24時間稼働という特殊性を持つため)、まずはScope3だけに決め打ちせず、Scope1/2/3を並べて比較していきましょう。
Step 3:戦略策定。目標を決定します。
現状を正しく把握できたら、次は目標を設定します。目標は以下の3層構造で設計することで「経営 → 部門 → 現場」の責任分解が明確になります。
3層構造を例とともに、以下に示します。
経営目標
例:2030年までに総排出量▲X%
部門目標
例:電力原単位▲X%、感染性廃棄物▲X%
施策目標
例:LED化率、再エネ比率、分別徹底率
Step 4:どう評価しフォローするかを決定する。KPIの設計。
成果KPI:最も感覚的にわかりやすいKPI
例
総排出量(tCO₂e)
Scope別排出量
一方で、排出量を抑えるために「病院としての活動そのものを減らす」ということでは本末転倒になります。そうではなく、病院機能・安全・質を担保しつつより多くの利用者に医療を提供し続けながら、「効率を良くすることで、排出量を減らす」というのも戦略の選択肢に入ります。その場合、原単位KPIを用いてフォローアップすることが有効です。
原単位KPI
例
tCO₂e / patient-day(入院患者1人が1日入院するあたりの排出量)
kWh / bed-day(1病床が1日稼働するあたりの電力使用量)
一方で、成果KPIや原単位KPIは、あくまで「結果」を示す指標です。これらの数値を改善するためには、日々の具体的な取り組みがどの程度進んでいるかを可視化する必要があります。そこで重要になるのが、プロセスKPIです。
プロセスKPI
例
再エネ比率(%)
節水量(m³)
教育受講率(%)
サプライヤー評価率
“測って改善している”証拠がここに出ます。
Step 5:モニタリング体制
おすすめは時間スケールの異なる「二階建て構造」です:
月次:現場会議
四半期:経営レビュー
ダッシュボード化し、「数字+原因+次のアクション」を必ずセットにします。そうすることで、PDCAサイクルが生まれる体制が確立されます。
Step 6:理事会監督
年1回以上:
ベースライン
前年比較
重要課題
次年度計画
を審議し、議事録を残します。
ここはJCIで重視されるポイントの一つでしょう。
Step 7:年次報告と更新
対外公表し、目標を更新する。
このアクションが「PDCAが回っている証拠」になりますので、忘れず用意することをお勧めします。
第2回まとめ:GHIは“環境対策”ではなく“経営のアップデート”
GHIは、環境活動を「加点項目」から「病院運営の基準」へ引き上げました。
GHI01, 03における成功の鍵は、
ガバナンス
測定
戦略
モニタリング
を“仕組み化”することです。
今回ご紹介した7つのステップは、主にGHI.01(ガバナンス)とGHI.03(測定と削減)の実装を中心としたものです。しかし、GHI対応はそれだけでは完結しません。
次回第3回では、温室効果ガス排出の大きな割合を占めるScope3と持続可能な調達(GHI.04)に焦点を当て、現実的かつ実装可能なアプローチを解説します。
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※本コラムの内容は、JCI第8版で新設されたGHIの現時点での公開情報および審査動向に基づき整理したものです。GHIは新設章であり、今後の審査実績や解釈の整理に伴い、本コラムの内容は更新される可能性があります。あくまで参考情報としてご活用ください。
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