人間ドックによる収益拡大戦略
- Afya Management and Innovation

- 2025年11月2日
- 読了時間: 6分
― 経営判断の質を高め、持続可能な医療経営を実現する ―

医療機関を取り巻く経営環境は、これまで以上に厳しさを増しています。保険診療収益の先行きが不透明な中で、安定した経営基盤を築くために「人間ドック事業の強化」に踏み切る施設が増えています。
一方で、「予防」「早期発見」への社会的関心が高まり、国策としても健康寿命延伸が推進されています。こうした潮流は、医療機関にとって単なる事業機会ではなく、「社会的使命」と「経営的成果」を両立できる好機でもあります。
人間ドックは自由診療であり、価格・メニュー設計・運用体制を自施設の特性に合わせて柔軟に構築できる点が最大の魅力です。すなわち、戦略的アプローチ次第で、利益率・稼働率・ブランド価値を同時に最適化できる領域といえます。
人間ドック収益拡大戦略の前提 ― リスクと投資のバランスを設計する
弊社にも、「人間ドックの収益性をどのように高めるべきか」「設備投資は何に行うべきか」といった経営相談を多くいただきます。
私たちが重視しているのは、リスク・投資額・実行スピードの異なる施策を組み合わせ、段階的に成果を積み上げる戦略設計です。これにより、経営への影響を最小化しながら改善を進めることができます。
戦略は大きく以下の3つのステージで整理できます。
クイックウィン施策:短期・低投資・低リスク(現行最適化)
アジャスト施策:中期・低投資・中リスク(構造改善型)
スケールアップ施策:長期・高投資(成長拡大型)
クイックウィン施策 ― 既存リソースで即効性を生む
初期投資をほとんど必要とせず、現有の設備・人員・顧客基盤を活用して収益性を改善するフェーズです。特に初動としては「収益性の把握」と「利用動向の分析」が鍵を握ります。
高収益メニューの利用率を高める
まず、自施設で提供している人間ドックの各コースの収益性を定量的に把握します。利用者比率と収益率を突き合わせてみると、意外にも収益性の低いメニューに偏っているケースが少なくありません。
分析結果をもとに、高収益メニューへの誘導設計を行うことで、即時的な利益改善が見込めます。以下に、誘導手法案をご紹介します。
スタッフによる「価値提案」の徹底
高価格ドックは単価が高いだけでなく、「付加価値を提供している」という確信が前提にあります。スタッフがその価値を正確に説明できるかどうかが、選択率を左右します。もし説明が難しい場合は、価格設定や内容の見直しが必要です。現場の理解度と顧客説明力が、経営改善の基盤になります。
利用促進キャンペーン
一定期間の割引、カップル利用キャンペーンなども有効です。重要なのは、勘ではなく「移行率と利益率の試算」に基づいて設計することです。特にカップル利用は、リソース効率を高めつつ新規利用者を取り込む施策として有効です。
予約枠の再設計
中価格帯のドックに予約が集中している場合、高価格帯ドックの予約枠を拡大し、待機時間を短縮することで、「待たずに受けられる」という新たな価値を提供します。この“体験価値の最適化”が高収益メニューへの移行を後押しします。
客単価を向上させる(オプション提案)
既存ドックに加え、オプション検査をアラカルト形式で提供することで客単価の向上を狙います。地域の疾病傾向や外来患者データを踏まえ、「この地域の利用者が最も気にしているリスク」に焦点を当てたオプションを設定すると、利用者満足と客単価向上を同時に実現できます。
アジャスト施策 ― 経営データをもとに構造を最適化する
次のステップは、中期的な視点でメニューや価格の構造を見直す段階です。実行スピードはやや落ちますが、長期的な収益改善効果が期待できます。
メニュー変更
顧客データを用いて、どの層が、どの時期に、どのコースをどの頻度で利用しているかを分析します。リピート率・離脱率・推移の3指標をもとに、強化すべきサービスと整理すべきサービスを明確化します。
利用者の「満足」と「不満」の要因を可視化し、エビデンスに基づいたメニュー改編を行うことが、ブランド構築を支えます。
価格改定
原価上昇や人件費の増加により、価格改定を検討せざるを得ない施設も多いことと思います。人間ドックは「健康」という生活基盤に関わる商品であり、高価格帯利用者は離脱リスクが比較的低い傾向にあると考えています。
ただし、低価格帯利用者への影響は慎重に見極める必要があります。利用者層ごとの価格感度を考慮し、競合比較を行いながら、新価格を設計します。加えて、フォローアップ体制を明確化(必要な場合には、強化)することで、顧客維持率を高めることも必要と考えます。
また価格は、「できるだけ高い価格」を追求するのではなく、「持続可能な経営のために必要な価格」という視点で設定することが大切です。貴施設の経営状況を丁寧に吟味し、長期的な経営の目標値をどこに置くのか、その目標を達成するために人間ドック事業からどの程度の収益拡大が求められるのかを逆算的に考えることが重要です。こうした“逆階層の思考”に基づいて試算を重ね、戦略的かつ根拠のある価格決定を行うことで、値上げが単なる「価格改定」ではなく、「経営の意思決定」として社内外に納得感を持って伝えられるようになります。
スケールアップ施策 ― 将来を見据えた成長投資
最後のフェーズは、長期的成長を見据えた設備・技術投資の検討です。投資判断を行う際には、勘だけでなく「データと試算」を根拠にすることが不可欠です。
キャパシティ拡大への投資判断
これまでの施策によって明確になった需要傾向に基づき、検査枠や設備拡大を検討します。利用履歴をもとにモデルシミュレーションを行えば、ボトルネックが明確になり、改善効果を数値化できます。無料で利用できる AnyLogic などのツールを用い、投資対効果(ROI)を可視化することを推奨いたします。
新技術の採用
疾患発見技術の進化は目覚ましく、尿検査によるがんスクリーニングなど、非侵襲的かつ自宅で実施可能な検査技術も登場しています。こうした新技術を早期に導入することで、他施設との差別化やブランド価値向上につながります。将来的な成長余地を見据え、技術トレンドへの関心を継続的に保つことも大切です。
おわりに ― 健康を軸にした経営の再構築を
人間ドック事業は、「健康を守る」という社会的価値と、「持続可能な経営」を両立できる事業領域です。経営者がデータとロジックに基づいて判断を下し、短期施策と中長期戦略を適切に組み合わせることで、安定した収益と利用者からの信頼の双方を実現できます。
本コラムが、貴施設の健全な医療経営、さらにそれを通じて地域の健康インフラをより強く、より持続可能なものへと変化させていく参考となれば幸いです。
弊社は、医療機関の経営を支援する専門家として、こうした変革をサポートしています。ご質問などがございましたら、お気軽にお問い合わせフォームよりお問い合わせください。




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